定年は新たな挑戦の機会 / セカンドライフデビュー物語

7月22日「生涯現役55歳からのお仕事セミナー」先輩の体験談コーナーでお話しいただいた橋本節夫さんの『セカンドライフデビュー物語』です。
定年後は活躍の場を模索され、現在は行政書士としても活躍なさっています。

◎定年は新たな挑戦の機会

 行政書士 橋本節夫(67)

 定年後は仕事をせずにのんびり暮らしたい…。現役時代は「定年」という響きにどこか憧れていたものです。ところがいざなってみると想像とはだいぶ違った、というのが2年前、65歳で退職したときの私の実感です。

 感じ方は人それぞれだと思いますが、私の場合、解放感に浸っていたのはせいぜい2週間ほど。次第に「これでいいのか」と焦りを感じるようになりました。1カ月もすると「こんな退屈な生活、もうたまらん」という心境に。新聞社という忙しい職場に、記者として何十年もどっぷり漬かってきた後遺症だったかも知れません。

 趣味などがまったくなかったわけでもありません。定年2年前から六十の手習いでピアノを始めました。車好きで憧れのスポーツカーも手に入れました。でも好きなことを楽しんでいるはずなのに、なぜか物足りなさを感じてしまうのです。しょせん趣味は前菜かデザート。人生最後の食事にやっぱりメインデッシュ(仕事)がないのはつまらない。退職1カ月でそう気づかされました。

 考えるよりまず動け。現役時代の習い性で、バタバタと仕事探しを始めました。ハローワークに行ったり、就職セミナーや勉強会に参加したり。しかし年齢の壁か、ハローワークの求人募集は応募してみたものの全滅。でもじたばたしていると何かにひっかかるものです。

 人に雇われるよりいっそ起業をと、生涯現役の相談スタッフから聞いた地元商工会議所の「創業塾」に参加してみました。そこで講師の方から「橋本さん、元新聞記者の行政書士なんていいんじゃない」と、勧められたのです。
行政書士って何? 早速帰りに本を買って帰りました。国家資格で試験を突破する必要はあるが、何歳からでも独立開業できる〝街の法律家〟とありました。全く知らない世界に挑戦してみるのも面白いと思いました。

 週1で地元駅前の専門学校に通い試験勉強を始めました。盛りだくさんの法律科目はなかなか手ごわいものでしたが、やり始めると面白くなってきて、ほぼ1年に及んだ受験勉強は昔と違ってなぜか楽しいものでした。今年1月、なんとか合格し、7月に行政書士事務所を自宅で開業しました。遺言書作成や相続業務を中心に行っています。

 実はこれと並行してもう一つ挑戦していたことがありました。家庭裁判所の調停委員です。これは退職後たまたま会った職場の先輩との雑談がきっかけでした。その方が定年後その仕事に就いていました。夫婦や親族間のトラブルを、公正中立な立場で双方から事情を聞き、話し合いによる解決のお手伝いをする、という仕事です。民間企業や役所を定年退職した方も多く、報酬はさほどないがやりがいはあると聞き、応募してみる気になりました。

 採用試験から任用までは半年ほどかかり、退職した年の秋に試験を受け昨年春、幸い任用されました。身分は非常勤の国家公務員です。半年間ほどの研修期間を経て、現在は行政書士業務の傍ら週2、3日勤務しています。

 人々のトラブルに関わる仕事ですから精神的にも大変ですし神経も使いますが、解決できたときの当事者の晴れ晴れとした笑顔をみると、こちらまでうれしくなります。人生のセカンドステージでとてもよい仕事に出会えた、と思っています。

 「定年」はいわば人生第二幕のスタート地点。新たなことを始めるよいきっかけです。一歩踏み出せば、新たな出会いがあり、新しい世界が広がっています。この2年間で得た私の教訓は、「じたばたしてれば何とかなる」です。皆さんも希望をもって、新しい世界へ一歩踏み出してみてください。